- 伝統的なゴルフトロフィー「クラレットジャグ」
- 投稿日:2015年07月21日
26[チャレンジベルト]/27 [クラレットジャグ]
世界4大メジャー「全英オープン」
男子ゴルフの今季メジャー第3戦「第144回全英オープン」が、ゴルフ発祥の地として知られるスコットランドのセントアンドリュース・オールドコース(パー72)で行われ、20日に終了した。この3連休に深夜のテレビ放送を視聴して寝不足の人もいるのではないだろうか。期待された松山英樹選手(23)は、日本勢でただ一人決勝ラウンドに進んだが、後半失速し18位で大会を終えた。残念……。
全英オープンといえば、世界4大メジャーゴルフトーナメントに数えられる有名な大会だ。特に、その歴史は1860年に初開催ともっとも古く、権威ある大会として一目置かれている。勝者に贈られるトロフィーも年代物の逸品。今回は、この伝統的な全英オープンの優勝トロフィー「クラレットジャグ(the Claret Jug)」を取り上げる。
「チャレンジベルト」から銀杯へ
そもそも1860年開催した当初は、優勝者に「チャレンジベルト(the Challenge Belt)」が贈られていたという。ベルトは、ゴルフ風景が彫刻されたシルバーのバックルと、エンブレムが装飾された赤い革製で、持ち回りとしていた。しかし、大会3連覇の選手にチャレンジベルトの所有権利を認めるとのルールのもと、1870年にトム・モリス・ジュニア選手の永久所有となる。ここで問題が発生する。資金難から次のチャレンジベルトが作れなくなってしまったのだ。結局、主催者、開催場所を巡る問題にまで発展していき、1871年全英オープンの開催が見送られることになってしまった。
その後、チャレンジベルトに代えて、優勝トロフィーを贈呈することに決まったが、1872年の表彰には間に合わず、1873年の大会からトロフィーが贈られることになった。このときに作られた優勝トロフィーが「クラレットジャグ」で、現在に続いている。ちなみに、1872年優勝者には、「ゴルフチャンピオントロフィー」と彫られたメダルが贈呈されているので、ご心配なく。
栄光のクラレットジャグ
ゴルファーであれば、誰でもこのクラレットジャグに名前を刻まれることを願っているといっていい。「クラレット」は、フランスのボルドー地方で作られる赤ワインやその色を示す通称で、「ジャグ」は取っ手つきの水差しのことを指す。その昔、英国で行われたゴルフ競技会のチャンピオンを称え、銀製の赤ワイン用ジョッキを贈ったのが原型といわれている。正式名称は「ゴルフチャンピオントロフィー」だが、通称「クラレットジャグ」と呼ぶ。1873年以降、優勝者の名をトロフィーに刻んできたが、1888年にはスペースがなくなってしまったために、銀板を周囲に張った台座が付けられるようになった。また、オリジナルのトロフィーは1927年からR&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ)(※注1)に保存されることになったので、現在はこのオリジナルをもとに作られたレプリカが優勝者に手渡されている。
海岸沿いの難コースを制する者へ
全英オープンの最大の特徴は、リンクスコース(海岸沿いのあるがままの自然を残した状態のコース)にある。人の手を加えて作り上げられたゴルフコースとは異なり、難しいコースといわれているが、大会が開催されているオールドコースもまさにそういったコースの一つである。起伏の激しいフェアウェイ(芝を短く刈り込んだメインコース)、垂直の壁が立ちはだかる深いバンカー(砂地のくぼみ)、フェスキュー(細く長い洋芝)を腰の高さまで伸ばしたラフなど、難所が多い。おまけに英国スコットランドならではの晴れた日のほうが珍しい悪天候に、特有の海からの湿った強い風とコンディションも厳しいことで有名だ。今大会も悪天候で中断する場面があって、試合が1日延びている。
オールドコースでは、1ラウンド=18ホールを72打で終えればスコア±0なわけだが、優勝を狙うなら、この難コースをもっと少ない打数で回らないとならない。今回は米国のザック・ジョンソン選手が4ラウンド通算15アンダーでプレーオフの末に優勝を決め、クラレットジャグを手にした。クラレットジャグに日本人選手の名前が刻まれる日が来るのはいつだろうか。ぜひ期待したい。
※注1 R&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ):全英ゴルフ協会のこと。英国ではR&Aがゴルフ協会の役割を果たす最高機関となり、USGA(全米ゴルフ協会)と協力して世界のゴルフルールを決定している。