- 世界最古のスポーツトロフィー「アメリカズカップ」
- 投稿日:2015年06月26日
25[アメリカズカップ]
160年以上も前から使われている!
160年以上、継続して使われている世界最古のスポーツトロフィーがある。最高峰の国際ヨットレースといわれる「アメリカズカップ(America's Cup)」のトロフィーだ。「アメリカズカップ」は、そのトロフィーの名称でもある。
発端は、1896年(明治29年)に始まる近代オリンピックをさかのぼること45年。1851年(嘉永4年)にイギリスのロンドンで開催された、第1回万国博覧会の記念ヨットレースになる。海洋王国の威信をかけて集結したイギリス艇14隻と、新興国アメリカから参戦した艇1隻の計15隻。圧倒的な速さを見せつけて優勝したのがアメリカ艇で、その名も「アメリカ号」だった。アメリカ号が持ち帰った、水差しをモチーフにした純銀製の優勝トロフィーは、アメリカ号のカップということで「アメリカズカップ」と呼ばれるようになる。その後、アメリカズカップは「カップの保持者は、いかなる国の挑戦も受けねばならない」ということを記した贈与証書(Deed of Gift)とともに、ニューヨーク・ヨットクラブへ寄贈された。この証書に基づき、1870年(明治3年)に第1回大会が行われたのが「アメリカズカップ」の始まりである。
ものスゴイことになっているヨットレース
アメリカズカップは、人工的な動力を使わず、帆(セイル)で風を受けて海上を滑走するセーリング競技である。ただヨットに帆を立てたものだと思ったら、大間違いだ。近年になってから、伝統的なモノハル艇(船体が1つ)を脱してカタマラン艇(双胴船、2つ並んだ船体を甲板でつないでできた船)の時代になり、参加する艇のデザインも近代的に様変わりした。艇は、想像を超える大きさで、速さも半端ではない。第34回大会(2013年開催)で採用された規格のカタマランAC72は、全長22m・最大幅14m・マスト高40mで、クルー数は11名。最高速度は、時速約80kmになることもあるモンスターボートなのだ。さらに、この艇には水中翼(フォイル)がつき、なんと約6tの艇が、空中に浮き上がって走ることになった。空中に浮いてしまうと操作が利きづらくなるので、かなりスリリングな状況になるらしい。実際、静止画の写真だけ見てもかなりの迫力である。アメリカンズカップは、「洋上のF1」とも称されるダイナミックなスポーツへと変貌している。
17年ぶりに日本チームが参戦
このモンスターボート、大会のたびに出場するチームが、その国で建造しなければならない。各国の造船工学、流体力学、気象学などの最先端技術や軍事からの応用技術を投入して速さを競うため、参加国の威信を賭けたレースにもなる。近年は、艇の大型化や高速化で開発費も巨額だ。何百億円という資金を投じて行われるだけに、資金不足で出場したくてもできない状況にあるチームも多いという話しである。参戦しているのは億万長者ばかり。豪華な趣味でうらやましい限りだが、参加チームの減少という問題が顕著になり、開催が危ぶまれるようになってきた。
なんやかんや迷走しているアメリカズカップだが、きたる2017年に第35回大会が英領バミューダ諸島で開催される。この大会からレース艇の規格が変更されてデザインが均一化し仕様と規格が細かく決定されたため、艇の設計・開発面での負担が減少し、新しいチームが参入しやすくなったという。資金繰りの問題で2000年に参戦して以降、チャレンジを断念してきた日本も、あの白いお父さん犬で有名なソフトバンク株式会社が一般社団法人関西ヨットクラブ(KYC)とともに「ソフトバンク・チーム・ジャパン」として、挑戦することを表明している。
銀杯を持ち帰るのは!?
アメリカズカップは、1チーム対1チームのマッチレース。2017年開催予定の第35回大会では、前回優勝したオラクル・チームUSA(防衛艇)と、挑戦艇1チームが争う。その前哨戦として、今年2015年7月の下旬に、挑戦チームを選出する「アメリカズカップ・ワールド・シリーズ」が英国ポーツマスで始まる。参戦する「ソフトバンク・チーム・ジャパン」の前帆には「走る白いお父さん犬」のイラストが入るらしい。これまでのチャレンジで予選突破経験のない日本チーム。さて、今回はどうだろうか。
個人メダルがあるわけでも、賞金が出るわけでもないアメリカズカップ。ただ一つの銀杯をめぐって、技術と英知と胆力、そして運とを武器にひたすらトップを目指して海を駆ける。アメリカズカップは、きっと男のロマンみたいなものが詰まったトロフィーなのだろう。次に銀杯が落ち着く地が日本であれば、ぜひこの目で見たいものだ。