エンターテインメント
米ハリウッド映画界の光と影
投稿日:2015年05月11日
01[オスカー像]/02[ラジー賞トロフィー]
トロフィー冥利につきる栄誉
世界で知られるアメリカ映画の祭典といえば、映画界最高の栄誉ともされる「アカデミー賞」である。「ジ・オスカー・ゴーズ・トゥ(受賞者は)……」と読み上げられることからもわかるように、賞に並んで有名なのが、1929年の第1回授賞式以来、アカデミー賞の受賞者に贈られてきたトロフィー「オスカー像」だ。手に剣を持ち、フィルムのリールの上に立つ金メッキの人型の像を思い浮かべることができる人は多いだろう。台座を含め全高34.3cm、重さ3.86kg。青銅製で、24金メッキが施されたブロンズ像である。
製造元は、世界の名立たる表彰品を手がけるシカゴのトロフィーメーカー、R.S.Owens(アール・エス・オーエンス)社。それなりに高価なものだが、それほど値が張るものではない。販売されていないので確かなことはいえないが、トロフィー生活でも取り扱っている高価なトロフィーくらいの値段である。たぶん。しかしアカデミー賞は、このオスカー像の他に賞金や副賞は一切ないので、像に付随する「名誉」という付加価値はかなりのものだ。オスカー像の存在意義は絶大で、これこそトロフィー冥利につきるといえるのではないかと思う。
1億8000万円の価値!?
こんなに有名な映画賞のトロフィーなんて、そうそうもらえるものではない。贈られたみなさんは、さぞ子々孫々まで大切に保管するかと思いきや、長い年月の間にやむを得ない事情で手放そうと考える受賞者やその相続人がいるらしい。買い手はかなりいそうだが、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミー(AMPAS)では、こうしたときのために像の売買や処分を禁じる規定を設けている。オスカー像の名誉と価値を守るためだ。もし何らかの理由で手放すときは、AMPASに1ドルで譲り渡さなければならないそうだ。
とはいえ、規定適用前のオスカー像が市場に出回ることはある。1999年には『風と共に去りぬ』(1939年公開)の作品賞オスカー像がオークションに出品され、過去最高の154万ドルで競り落とされた。今の相場(1ドル=約120円)で日本円に換算してみると、1億8000万円。お金に換えられるものではないが、その価値を推し量ることはできる。
受け取りを拒まれるトロフィー
光があれば影がある。引く手あまたのオスカー像と、あまりにも対照的なのがラジー賞トロフィーだ。実はアカデミー賞の前日に、「その年にもっとも最低だった映画」を決めるゴールデンラズベリー賞の受賞式が行われているのだが、その通称ラジー賞のトロフィーである。ラジー賞はゴールデンラズベリー賞財団の会員による投票で決まる。会員になるための初期費用は35ドルと少額で、誰でもなれる。だが、顔の見えない一般人とはいえ、それなりに映画を観ているであろう、本来の観客たちに最低の烙印を押されるのだから、ダメージは深いといえるかもしれない。
トロフィーは、8mmフィルム缶の上に金色のラズベリーをあしらったものだ。なぜラズベリーかというと、ラズベリーの名称が人を侮辱する音やヤジを意味する俗語に由来しているのだという。あまりにも不名誉なため、ラジー賞トロフィーを受け取りに来る人は滅多にいないらしい。受け取りを拒まれるトロフィーとは、表彰品として生まれたのになんとも切ない。
必ずしも悪いとは限らない
ラジー賞受賞作品といっても、単にどうしようもない映画というよりは、個性的すぎて一般ウケしない作品であったりもする。そもそも映画の善し悪しの基準は、個々のものなのだから。とにもかくにも、ラジー賞はアメリカ風のジョークなのだ。
すでにオスカー女優だった、ラジー賞受賞者の米女優ハル・ベリーは授賞式に姿を見せ、右手にラジー賞トロフィー、左手にオスカー像を持ち、アカデミー主演女優賞を獲得したときの受賞スピーチをセルフパロディ化し喝采を受けた。「アカデミー賞を受賞したからといって良い作品とは限らないし、逆にラジー賞を受賞したからといって必ずしも悪い作品とは限らない」とは本人のコメント。アカデミー賞のほうがいいに決まっているが、その陰で盛り上がるラジー賞も捨てたものではない。むしろ、注目を集めるという点では、受賞もあながち悪いものとは言いきれない!?